検索実習などで用いてきたシナリオを例示します 利用にあたっては以下の注意点をご確認下さい。
  • これらのシナリオは、なるべく具体性を得るために実際の状況などを参考にしています。しかしながら、すべてにおいて手を加えており実際の状況とは全く違ったものにしています。万が一、似たような状況があったとしても、それは偶然の一致です。
  • これらのシナリオが、たった一つの教科書の記述、たった一つの論文、たった一つのコメントなどで、解決するとは思っていません。現場では、さまざまな要因が関与しています。実際の判断においては、現場の当事者の判断にまさるものは滅多にありません。その現場での判断をより確実なものにするために、情報が必要だというだけです。この点は、資料集の「EBMとは」でも解説しています。
  • また、これらのシナリオはこのまま使うのではなく、みなさんが自分の現場や専門性に合致したシナリオを作る手助けになればと思っています。すべての人にとって最高のシナリオはありません。みなさんが、自分たちの現場を振り返って、取り組もうと思えるシナリオを作って利用して下さい。

貧血と結膜
あなたは、ある病院の内科医である。研修医に理学所見の取り方を教えることになり、いくつかの所見についてまとめていた。
その中でふと、眼瞼結膜の所見はどの程度貧血の診断に役立つか疑問に思えてきた。確かに、出血性ショックのような場合には眼瞼結膜は白くなり、有用であるように思えるが、果たして血行動態の安定した患者に眼瞼結膜をルーチンに見ることがどの程度意味があるのだろうか。第一、anemic、slightly anemic、not anemicだなんてどう決めればよいのだろう。

熱性けいれんの子の未来
あなたはある病院の小児科のレジデントである。最近熱性痙攀の子供の主治医となった。この子は痙攀の発作が長時間続き、痙攀発作終了後もしばらく意識がはっきりしなかったため入院となっていた。
この母親が自分の子供に何らかの障害、痙攀発作の継続や学習障害などを心配していた。通常の熱性痙攀であれば心配ないですと言えるのだが、この患児の場合はどう判断して良いやら見当がつかなかった。

化学療法の生存者 その子供は?
あなたは、ある病院小児科医である。10年以上前に白血病(ALL)で加療を受けた21才の男性患者が外来を受診してきた。あなたはこの患者を見たことはないのだが、担当した主治医はこの病院にいないため、割り当てられたようだった。本人の話によると、昨年結婚しこの年末に父親になるのだが、子供に関して不安があるので相談にやってきたという。本人は、自分がALLの既往があることを妻に話していない。自分としてはここ5年程は病院に行ったこともなく、健康であると思っているが、最近出産が近づくにつれ不安になってきたのだという。10年以上前とはいえ、髪の毛が抜けるほどの薬を投与されていたのだから自分の子供に何らかの異常が出るのではないか、特に遺伝的な原因もからんでまた子供がALLになるのではないかと心配していた。あなたは、来週までに調べておきますからもう一度来てくださいと話をした。あなたは、意を決していろいろ調べ始めた。

腎不全患者への造影剤
あなたは、ある病院の循環器内科医である。今度、腎機能低下のある糖尿病患者に対してPTCAを行うことになった。この患者は、左前下行枝の近位部に狭窄があった。心筋梗塞の既往はないが、前壁の運動がやや低下しており、左室駆出率はほぼ55%程度とされていた。
この患者は、血清クレアチニン値は2.0mg/dlであり、身長は165cm体重63kgであった。空腹時血糖は内服薬と一般管理で100-140程度にコントロールされ、HbA1cは6前後で推移していた。前回の冠動脈造影では、特に腎機能低下などの問題は生じなかったが、今回はPTCAでもあるので、造影剤が150ml程度必要ではないかと予測していた。場合によってはさらに、増量する可能性もあった。
あなたは、とりあえず術前から輸液を行い、PTCA中もなるべく造影剤を少量にとどめるようにしようとは思っていたが、果たしてどの程度腎不全のリスクがあるかを把握しておこうと思い、文献を検索してみた。
さらに、この患者について以下のことが提案された。
造影検査後の予防的血液透析
まだ日本で認められていないが、アセチルシステインの投与
あなたは、どの程度意味のある治療なのかを調べてみたいと思っていた。

意識消失のあったくも膜下出血
あなたは、ある病院のレジデントである。先日、46才の女性が意識消失と右半身麻痺にて救急外来に搬送されてきた。この患者は会社のロッカールームで倒れているところを発見され、救急車で搬送中に意識を回復し、救急外来到着時には自発開眼はあったが、右上肢の完全麻痺と右下肢の不完全麻痺、急性の失語を呈しているようで、指示に従えるかどうか、発語があるかどうかはよくわからなかった。同僚の話などから完全に意識のない時間は、長くても30分程度と思われた。病院到着後CT検査などでくも膜下出血と診断され、緊急脳動脈造影にて左中大脳動脈の脳動脈瘤が発見され、緊急で開頭動脈瘤クリッピング術が行われた。術翌日には意識は回復し、麻痺や失語も消失した。
本人や家族から今後の経過について聞かれ、くも膜下出血の時には発症後に起こる血管攣縮が問題になることを知っていたあなたは、「とりあえず最も心配な時期は乗り切っていますが、今後もう一度症状が出現することがあるので、十分注意するつもりです。」といった説明をした。家族から、術前は意識がないほど重症だったのに大丈夫だろうかと聞かれ、「やはり普通の人よりは重症になりやすいかもしれませんね」といった話をしていた。

完全左脚ブロックと急性心筋梗塞の診断
あなたは、ある公立病院の内科部長である。救急外来の責任者でもある。
最近、救急外来で若手医師が胸部の違和感を訴える患者に対して、心電図所見から急性心筋梗塞を疑い血栓溶解剤(組織型プラスミノーゲンアクティベーター)を静注した。しかし、実際には完全左脚ブロックであり、後に患者は軽い逆流性食道炎と診断された。あなたは、ろくに心電図も読めないまま数十万円もする薬剤を投与した研修医に強い憤りを感じていたが、一方で脚ブロックの際の急性心筋梗塞の診断の難しさも知っていた。一度きっちり調べた方がよいと思い始めた。

症状のなかった心筋梗塞患者
あなたは、ある病院の循環器内科のレジデントである。先日、76才の男性が息切れを主訴に救急外来を受診した。この患者は糖尿病で内科外来通院中であり、内服薬と一般管理で空腹時血糖は100-140程度にコントロールされ、HbA1cは6前後で推移していた。2年ほど前に心筋梗塞(下壁)の既往があったが、梗塞巣は広くなく心機能は温存されていた。その後狭心症などはなく、運動負荷心電図にても有意な心電図変化を認めていなかった。
来院時、脈拍110/分、血圧は160/110であり、モルヒネ5mgを投与しやや症状は落ち着いた。あなたは、身体所見と胸部レントゲン所見から高血圧症性心臓病による心不全を疑いICUに入室させたが、翌朝別の患者の心エコー検査をしていたところ、看護婦からCKが上昇していると連絡を受けた。あなたは、あわててICUにゆき、心電図を確認したところ下壁領域で新たにT波は陰転しており、CKも1500U/Lと上昇していた。部長に相談したところ、もう時期が過ぎているので緊急での冠動脈造影をすることはないだろうと言われ、通常の内科的治療でしばらく様子を見ることにした。
あなたは、自分が急性心筋梗塞を見落としたことで少し落ち込んではいたが、痛みを全く訴えない急性心筋梗塞患者は以前にも診たことがあったので、気になっていた。以前、糖尿病患者において痛みを訴えない急性心筋梗塞の患者の頻度が高く、予後が悪いという論文を読んだことがあったが、どれくらいだったか思い当たらなかった。

意味のない心肺蘇生を止めたい。でも…
あなたは、ある市立病院の救急医である。院外心停止患者が運ばれてくるが、ほとんど回復しなかった。たとえ、救急外来で心拍再開しても結局2,3日で意識を回復しないまま死亡する症例がほとんどだった。社会復帰したのはここ2年ほどで1例か2例だと思われた。
あなたは、無意味に思えるような蘇生行為に1時間も費やすことがある現実を何とかしたいと感じていた。もっと早く蘇生中止の判断はできないものか。もちろん、かってに判断することは避けなければならないが、何か目安のようなものはないかと考えていた。

在宅リハビリを行うべきか
あなたは、地域保健担当の行政官である。今度介護保険でリハビリが拡充されるのに伴い、在宅の老人に対する在宅のリハビリテーションの有効性について検討する必要性を感じていた。あなたの担当地区は地方都市であり、都市とはいえ最近は基幹企業の衰退から労働人口は減少し老齢化が進んでいた。一番の悩みの種は、今後の老人医療費、国保負担の増加であり、何とか寝たきりや要介護状態の老齢者を増やさなくする方策はないものかと考えていた。その対策としてこのリハビリの拡充が使えるかもしれない。しかし、拡充に伴い費用もかかる。
あなたは、費用のことはいずれ検討しなければならないと思いながらも、在宅の要支援状態の独居老人に対して単にヘルパーを派遣するだけではなく、在宅でのリハビリ指導を勧めるようにしてはどうか、そのことで要介護状態になる人を減らしたり、少しでも遅らせたりできるのではないかという意見があった。しかし、在宅のリハビリで活動性があがるとかかえって交通事故や転倒などの事故が増えるかもしれない。このような難しい状態を整理するために、在宅のリハビリの有効性について検討しようと思った。

人食いバクテリアを乗り越えることができるか
あなたは、ある病院のICU担当医である。4日ほど前に劇症型溶連菌感染症患者がICUに収容された。患者は68歳の男性であり、高血圧や糖尿病などの合併症はなかったが、一日5合以上の日本酒を飲むなどアルコールはかなり飲んでいたようであった。以前から肝障害を指摘されアルコールを控えるようにいわれていたが、守れなかったということだった。
ICU収容時には気管内挿管され敗血症性ショック状態であった。右下肢は臀部まで発赤があり、下腿には水疱形成を伴っていた。溶連菌感染による壊死性筋膜炎と診断されていた。大量の輸液と昇圧剤の投与で血行動態を安定させてから緊急手術で切開排膿術を行った。手術時間は3時間ほどであったが、術中から無尿状態となり結局その後2日おきの透析が必要な急性腎不全状態となった。
抗生物質としてはアンピシリンが選択され、下肢の発赤の広がりは小康状態となった。あなたはこの患者の予後が気になりはじめた。果たして助かる見込みはあるのだろうか、周りの医師に聴くと「五分五分といったところかな」という返事が返ってきた。