CASP Japan 2000: by Toshio Fukuoka

情報を見極める目を持とう:批判的吟味入門

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降ってくるような、大量の情報。自分に都合のいいことだけ見れば、それですますこともできそう... でも、ちょっと待って! その情報には結果の善し悪しより前に、信頼できそうか、役に立ちそうかをまず考える必要があるのではないでしょうか。その結果も、本当は何を意味しているのか見極めて、その見積もりの中にどれくらいあいまいさを秘めているのか考えてみるのも重要です。
ここまでを読んでいただいて、「そうそう!」とか「確かにその通りかも...」、「もっと知りたい」と思えた方は批判的吟味の準備は万全です。CASP Japanはそんなあなたを応援しています!もう一がんばりして、この批判的吟味入門を読んでみて下さい。

「批判的」? 「吟味」? 
「何か人の話にケチをつけるみたいで抵抗がある。→でも、ちょっと待って下さい。わたしたちは、無批判に情報に向き合っているでしょうか。現実には、その中で役に立ちそうなもの、信頼できそうなもの、しかもその内容を十分見極めていませんか。今は雑誌や新聞、テレビなどから降り注ぐように情報が提供されています。これを無批判に受け入れることは不可能です。同じ事に対する情報が全く異なる内容であることもあります。
特に問題になるのは、「行動の課題」に関する情報です。ある行動に関して行うべきかどうかを決めるための情報です。
課題課題の種類
日頃思いつく情報を2つに分けてみましょう。1つは「科学的な課題」です。知識として身につけることが主目的です。もう1つは「行動の課題」です。これは、ある行動をするかどうかに関する課題です。
科学的な課題の例

  • 火星に生命はいるのだろうか
  • 電気ウナギはどのように電気を発しているのだろうか
  • ニュートリノに質量はあるか
このような、科学的課題は確かに健康的な知識欲を満足させ、人の心を豊かにします。しかし、これらの知識を身につけることが必ずしも行動に結びつきません。
行動の課題の例
  • この治療を受けるべきだろうか
  • 仲直りをするためにこちらから謝るべきだろうか
  • 今日、研修会にゆくべきだろうか
このような行動に関する課題は、日常的にたくさん直面しています。そのたびに何らかの判断・決断を行っています。この行動の課題に情報は必要です。
医学論文にも、科学的好奇心を満足させる「科学的な課題」に答えるためのものもたくさんあります。しかし、実際に臨床の現場で活用されるのは、治療などの医療行為を評価した「行動の課題」に答えるものです。
課題の種類分け:その2 背景か、前面か
この、「科学的な課題」のことを「background question」とし、「行動の課題」のことを「foreground question」とすることがあります。現場での出来事の背景を探り基礎知識を得るための課題か、現場の最前線で直面する課題かということです。→

実際に、臨床での判断を左右する論文の結論としては、以下のようなものがあります。
「アスピリン投与は急性心筋梗塞に有効である」
このような記載を目にすると、あいまいさを残さない確実なものに思えます。しかしこの結論はどこから導き出されたのかを見極める必要があります。この記載のもととなるのは、以下のような臨床試験結果です。
「急性心筋梗塞の急性期から、アスピリンを1160mg程度を投与すると、1カ月後の死亡率が3/4になる」
このような記載では、有効ではないようにとられるかもしれません。でも、実は前者の有効性の記述は後者の情報をもとしているのです。後者の情報をもとに有効性を述べているわけです。
この情報のもととなったのが、ランダム化(無作為割付による)比較試験(
randomized controlled trial: RCT)です。この手順を示した図を以下に示します。

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対象患者をさいころやくじ引き、乱数表などを用いて2つのグループに分けます。この一方に新しい治療を行い、もう一方に今までの治療を行います。新薬などの場合には「プラセボ:偽薬」などを用いることもあります。そうして両群の転帰、結果を追跡調査し比較するのです。この結果導き出されるのが、「急性心筋梗塞の急性期から、アスピリンを1160mg程度を投与すると、1カ月後の死亡率が3/4になる」という結果です。これに基づいて、「アスピリン投与は急性心筋梗塞に有効である」という「結論」が示されるわけです。ここから、「急性心筋梗塞患者には禁忌でない限りアスピリンを服用させる」という「推奨」・「治療方針」が示されます。「推奨」や「結論」に飛びつく前に、その研究の内容を見極め、その「結果」の意味するところをくみ取って自分自身の状況にあった判断を行おう、様々な不都合を考慮しても自分が我慢できそうか、あいまいな点、不確かな部分もひっくるめて納得できるか、といった点についても考慮しよう、というのが批判的吟味の目指すところです。
批判的吟味の手順をポイントをまとめると以下のようになります。
情報のチェックポイント
情報のチェックポイントは以下の3つに分けられます。

  • 情報は信頼できるかどうか:情報のもととなった研究方法は、様々な思いこみや見落としが避けられるよう、注意深く計画されたものであったか。また、実際に対象とした患者やその追跡なども、結果をくつがえすような問題をはらんでいなかったか。
  • 情報の意味することは何か:どの程度臨床での意味がありそうか(治療効果や診断の感度特異度、予後判定など)。また、それはどれくらいあいまいさを残していると判断されるか(推計学的信頼区間など)
  • その情報は役に立ちそうか:自分の状況に当てはまるか。実行可能か。患者や家族もそれを望んでいるか。社会もそれを容認しているか。
さらに、情報のチェックポイント、論文を吟味するためのチェックポイントを知りたい方は資料集のページで資料を探して下さい。
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