患者、対象者、現場、地域が抱えている健康に関わる問題を把握し列挙することができる。

ポイント:提示されたシナリオ、担当した患者・地域から、医療や保健に関わる課題が抽出する能力を開発する。
なぜ?:問題対応能力の第一は、患者や現場にある解決すべき問題を適切に把握することである。もちろん、あなたの目の前の研修医が最終的にどのような職場・立場で働くかは予想できない。場合によっては、一般住民を対象にした社会政策に関わるかもしれない。日本国内に限らず海外や国際協力事業、外洋船舶内などで働くかもしれない。さらに、大規模災害時などの特殊な状況での対応を求められる事態も想定されるだろう。どのような分野を選ぶにせよ課題を把握し列挙できることは課題解決の第一歩となる。その基礎能力として、担当する患者や現場から取り組むべき課題を抽出する訓練は重要になる。担当患者への対応に汲々とし指示された検査や処置をこなすだけではなく、どのような課題があるか、対応を怠っている課題がないかをしっかり考えさせよう。また、このような能力は研究者としての問題発見能力にもつながる。臨床に近い研究を行い社会に貢献できる研究者に育つ上でも、この点をしっかり身につける意義は大きい。
どこが難しいか:臨床経験や社会経験の不十分なものにとって、患者や地域が何に困っているかに気づくことは容易ではない。疾病や障害が人の何を苦しめるのか、その苦しんでいる人が何を願い何をさけたいと思っているのか、また医療や保健に何を期待しているのか、想像するのは案外難しい。特に研修医のスタートの時点では、いきなり担当患者で考えさせるよりも、少し制御された題材から始めた方がよい。具体的には、まとめて整理したシナリオ、担当患者のうち具体的な診療上の目標を立てやすい症例やある程度問題が解決した症例などが問題を把握しやすいと感じる。

指導のポイント
指導する側の問題:
臨床経験を積んだものは、扱いきれない膨大な課題が患者や現場にはあり、それに対応できたりできなかったり、結果が良好だったり思うようにいかなかったりすることをすでに経験している。このことが、この問題列挙能力を指導することの障害になる。研修医が思いつく課題を聞くと、すぐにそれが解決可能か常識的か現実的か広く行われているかなどで評価してしまう気持ちが働いてしまうのだ。私たち自身は、たくさんの疑問を抱き課題を抽出しつつ、それを取捨選択し効率よく医療を行うための課題選択能力を、知らず知らずのうちに身につけている。この能力はとても有用であるが、初心者を指導する場合には障害になる。一見無理に思える課題を挙げても、決して馬鹿にしてはならない。その無理を解決する人材が、今まさにあなたが指導している研修医であるのかもしれない。
どう列挙させるか:
ブレーンストーミングの手法を用い、なるべくたくさんの課題を抽出するように勧める。そして、シナリオや症例から抽出した課題は、倫理的・道義的な問題をはらんだものでない限り、すべて拾い上げる。研修医が抽出する個々の課題に対して個々に評価し始めると、ほめられそうな疑問しか出なくなる。それよりもむしろ、「初歩的なものなんですが」「ちょっと笑われるかもしれませんけど」といった前置きをしたいような課題でも抽出するような雰囲気をつくって多様な課題を抽出させる。
幼稚な課題をどうするか:特に研修初期の場合には医療者としての視点が不十分で、未熟に見える課題を抽出する場合があるが、実はそのような医療者からみて未熟に見える課題には患者の視点に立った課題を抽出するきっかけがある。決して、表面的な表現に惑わされることのないように、真意をくみ取るようにしたほうがよい。具体的には一見幼稚に見えたりわかりにくい課題には「どういう意味なんだろう」「どこからそのような課題を思いついたんだろうか」「もう少し具体的にまとめてみよう」と促した方がよい。
表現が不適切は課題をどうするか:臨床経験が少ない場合には、当事者に対して失礼な言い回しや不適切な表現をするものがいる。この場合の指導としては、表現そのものを否定するよりもその表現が不適切であることに気づかせた上で、言い換えるように指導した方がよい。不適切な表現を頭ごなしに否定しても、その表現をする「心」「気持ち」はなくならない。むしろ、その不適切な表現に気づき言い換えられる技術を身に付けさせた方がよい。「心」「気持ち」の問題は、研修を受けているうちに変わると考える。
研修医は何を知らないか:
研修医は十分に選択肢を挙げられない。たとえば、治療に関する課題を作る場合に、具体的な治療法を挙げられない。診断であれば、重要な検査や臨床所見、インタビューで聴かれる臨床経過などを挙げられない。さらに、治療効果を論じたりその後の経過を論じたりする場合にも、どのような合併症が問題になるか、どのような症状や障害に苦しむかがわからず、どのような効果のある治療法が重要になるのかがわからない。
従って、指導に当たってはこの点に気づかせたり情報を与えたりすることが重要になる。また、患者に直接どのようなことに困っているか、どのようなことを願っているかを尋ねることを勧めてもよい。この手順で確認しておかなければならないのは、患者中心の医療を実践するためには、患者が何を望んでいるかを知ることが不可欠という点である。