選択された手段を実行するにあたって、安全性と有効性を確保し、危険性や合併症が避けられる手段を選択できる

ポイント:
解決策を提示できることと、実際に行えることは別である。治療や検査、予後の予測など、実際に現場で対象者に対して実行できる技能や態度を身につけさせる。
なぜ?:
たとえ有効性の明らかな治療であっても、適応のない患者に投与したり、注意すべき副作用を見落としたり、有効性の評価を誤ったりしたら、かえって害になることがある。検査や身体所見にしても、適切な方法で行わなければ、報告や教科書などの記載と同様の感度・特異度は得られず、かえって誤診の原因になるかもしれない。
どこが難しいか:
課題解決策の実施にあたって、安全性と有効性を最大にできるようにすることは専門家にとっても注意しなければならない点である。そのためには、単に「○○には××を投与する」といった知識だけでは足りない。その疾患に対する病態生理学的な知識や、薬剤であれば薬理学的な知識、手術や侵襲的な手技であれば解剖学的な知識、さらに現場の事情や自分の実力や「くせ」のようなものまで、言葉にしきれない知識や経験を動員している。そのこと全体を研修医に伝えることは時間の制約なども大きく技術的に難しい。また、医学的な経験の乏しい、自分の専門とは全く異なる道を選択するかもしれず、また自分と興味を共有できているか不確かな点も残る研修医に伝えることに、心理的抵抗を感じることもあるかもしれない。このような難しさと抵抗感がローテーションという短期間しか接することのない初期臨床研修医への指導の難しさになる。指導するためには時間も足りず、中途半端に伝えれば逆に誤解を与えるかもしれず、安全に有効に実施するためには年余のトレーニング要するようなことを短い期間で「できる」と思いこませることは何も知らないことよりも危険ではないかという懸念も生まれよう。
しかし、多くの研修医にとって結局は専門外となり初期研修後は接することのない分野であっても、自分を指導している指導医がどのようなことを考えていて何を大事に思い何を避けようと診療にあたっているか、さらに、長年の自己研鑽や経験の中で何を学んできているか、特にその指導医の研修時代にはどのような知識や技術、態度の習得が大事であったかなどを知ることは、その後の診療姿勢や自己学習への態度、臨床経験の積み上げに関する前向きな姿勢などを身につける重要な機会となる。指導に当たって難しさのともなうところであるが、指導されるものにとっては貴重な情報・経験となる。
指導のポイント:
研修医が担当し経験した症例や手技、治療や検査、患者への説明などが指導のタイミングになる。研修医が何を考えているかを確認し、自分が何を考えるかを伝え、その点を考慮する利点と軽視・見落としによる危険性を伝えることが指導の内容になる。たとえば、腹部手術の腹腔内操作においてどこに注意しなければ出血の合併症を起こしやすいか、中心静脈穿刺においてどのような体表面の解剖や血管の走行を考慮しているか、細菌培養検査の検体を採取する場合にはどのような点に気をつけるべきか、ステロイドを投与する場合に副作用の有無を確認するためにどのようなことを尋ねどのようなチェックを加えるべきか、などが具体的な例としてあげられる。
最初は説明することが難しいと感じるかもしれない。しかし、その難しさを了解し、どうやったら伝わるか、どうやったら研修医に備わった知識や考え方を引き出せるか、どうやったら研修医の興味を引き出し行動変容につながるか、などにこだわって準備したり振り返ったりすることで「難しさ」を減じる方策に気づくことができる。さらに、指導が上手といわれる指導医は自分の経験や技術を上手に言葉にできる点が評価されていることがある。このような他の指導医の指導風景を見学することで自分にとって参考になる場合も多い。また、どうしても研修期間中に教えるのが難しいことがあれば「これは難しくて初期研修で説明するのは無理だ。もし、専門として選んだら△年くらいかけてゆっくり指導するよ」と説明してもよい。このような説明が研修医の興味をそいだり研修医からの評価が落ちたりする原因となることはほとんどない。むしろ何も説明しなかったり、初期研修ではとても身につけられないことを要求することの方が研修医をとまどわせる。
指導にあたっては、研修医の知識や興味を確認する。実際的な知識をすでに臨床実習などで指導されている場合もある。この場合には、その知識を確認した上で、もう一歩進めた指導をすることになる。逆に、当然の知識と思われることを身につけてないこともある。この場合には、知るべきポイントを伝えて自己学習を促すか、その場で必要最小限の知識を与えることになる。自己学習を促す場合には、具体的な学習教材を示す方がよい。
現在、医学教育において問題解決型学習が導入され、コアカリキュラムによる必要最小限の教育課題と、症例から始める実際的で深い学習を平行していている場合が増えている。このため、研修医の学習背景は従来以上に幅がある。逆に研修医を指導する場合には、すでにすんでいる学習を確認して個別に指導する必要性が高まっている。このことを指導医側が理解しておく必要がある。
指導する場合も、自分の専門を目指す若手医師とローテーションで研修を受ける初期研修医とを同等に指導する場合には学習内容も学習目標も変える必要がある点も注意しなければならない。このように、現在の臨床研修指導医に求められる内容は従来と変化してきている点を強調しておきたい。
このようなことを知れば知るほど、指導医側は指導内容の設定に困難を感じるかもしれない。とはいえ、同じ医療職を目指す研修医であるので、指導医の診療にあたる姿勢やその背後になる学習内容や技術、技能、態度はそのまま生きた教材となる。指導内容に最初は困難を感じても、なるべく何度か説明しているうちに研修医がすでに知っている知識と理解していない部分、さらに興味を持つポイントなどがわかるようになり、興味が持ちやすく効率がよく指導する側にとってもストレスの少ない指導が可能になる。