Q & A: Evidence based Medicineとは
CASP Japan 2000: by Toshio Fukuoka
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研修医指導:問題対応能力開発も参考に

Q: Evidence based Medicineの考え方とは何ですか?
A: Evidence based Medicineとは、すでにある医療情報・臨床研究結果を活用して、医療者側が持っている経験・技能と、患者の価値観・好みなどを、総合的に統合して医療における判断を行ってゆこうという考え方です。
このように書くと、今までの医療内容とどこが違うのか?ととまどう方もいるかもしれません。ポイントは、これらの判断の手続きをなるべく明らかにし、同僚や患者、社会とも共有しやすいように示されている点です。さらに、医療情報・臨床研究結果の活用の仕方に関しては一定の手順を提案していることです。

図:Evidence based Medicineの概念
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表:Evidence based Medicineの3要素とそのポイント
. 根拠:最も妥当な、結果の明白な、状況に当てはまる
. 価値観:患者の価値観・好み、社会の価値観・価値基準
. 経験:医療者側の専門職としての経験・技能

ここで、この3要素をまとめておきましょう。
根拠:これが、医療情報・臨床研究結果です。これを上手に活用するためには、情報を広く求める能力(情報・文献検索能力)、その情報の信頼性を見極める能力(情報吟味能力)、その情報の現場での適用性や価値判断を行う能力(情報の適用能力・情報に基づいた判断能力)の3つが必要になります。このうち、情報の吟味能力に関しては少し臨床疫学に関する知識が必要です。

表:Evidence based Medicineで重要視される情報運用の3能力
. 情報・文献検索能力
. 情報吟味能力
. 情報に基づいた判断能力

残念ながら従来の教育は「統計学」に関して数字を取り扱いデータを分析するというイメージを与えてきました。しかし、ここでの「臨床疫学」というのは、データの分析手法そのものに関してはほとんど知る必要性はなく、1)研究デザインが一時的な思いこみや見落としが入りかねず信頼しにくいものであるかどうか、2)その研究結果がどういった意味を持つものであるか、2つの点を判断できることを目標にしています。決して有意差検定の手法を細かく知る必要はありません。

表:EBMで必要とされる臨床疫学の知識
. 研究デザインが一時的な思いこみや見落としが入りかねず信頼しにくいものであるかどうか:臨床デザインの種類の理解、様々なバイアスの種類とそれを避ける手法
. その研究結果がどういった意味を持つものであるか:治療効果の指標の理解、リスク比、危険減少率、絶対危険率減少、治療必要人数、などの指標の理解。検査・診断に関しては感度、特異度などの指標の理解。さらに信頼区間などの推計学的指標の理解

重要な用語の例
研究の種類:体系的レビュー(systematic review)、ランダム化比較試験(無作為割付による比較試験)(randomized controlled trial: RCT)、コホート研究(cohort study)、症例対照研究(case-control study)、横断研究(cross sectional study
割付(
allocation)、無作為割付(random allocation: randomized)、対象基準(entry criteria)、追跡率(follow-up rate)、転帰・エンドポイント(endpoint)、結果(outcome)、治療意図に基づく分析(intention to treat analysis)、盲検化・目隠し(blinding, masking
バイアス(
bias)、選択バイアス、評価バイアス、検査バイアス、交絡因子(confounding factor
第一種の危険率、第二種の危険率、信頼区間(
confidence interval
危険率(
risk)、リスク比(risk ratio: RR)、相対危険率減少(relative risk reduction: RRR)、絶対危険率減少(absolute risk reduction: ARR)、治療必要人数(number need to treat: NNT

価値観:患者さんの価値観や好みに加えて、社会の価値基準からも医療における判断が無縁にはなれません。これを把握する能力も重要です。患者さんとのコミュニケーション技能、あらゆる価値観に対する共感する態度、これらを支える患者情報の把握、などが必要です。また、社会の価値基準からはずれないためには、その判断を共有する医療チームを形成することも重要になります。重症患者管理や救命治療、緩和ケアなど困難な判断が要求される分野であるほど、医療チームでのアプローチが強調されます。チームアプローチを行うと、同僚や他の医療職と判断を共有することで、判断のもととなる価値判断の基準が一時の思いこみや見落としを含んでいないかどうかお互いに確認することができます。

表:価値観を把握した判断を実践するためのポイント
. 患者さんとのコミュニケーション技術、患者情報の把握
. 他人の価値観に共感し、自分とは異なる価値観を容認する態度
. 社会の価値観・倫理観をふまえる姿勢
. 医療現場での判断を、なるべくチームで行おうとするシステム

経験:医療側の経験や技能も判断に重要な意味を持ちます。手術や特別な処置の場合、施設の経験や技能によって判断が異なることはありえます。また、このような場合だけではなく治療に伴う不都合や様々な治療のオプションを知っておくことは、判断の広がりを可能にします。臨床経験をもとに、医療者側が治療に伴う不都合や危険性、様々な代償、コストなどをわきまえていることも適切な判断につながる重要なポイントになります。

表:経験を活かした判断を実践するためのポイント
. 自分の経験を積み重ね振り返る姿勢
. 自分の臨床能力や限界をわきまえる態度
. 患者さんにとって重要な基準・結果で医療行為を評価するシステム
. 医療行為の負の部分(危険性、不都合、苦痛、コストなど)も含めて評価する姿勢

この3つの要素はお互いの足りない部分を補うものです。例えば、明らかに生命予後の改善が期待される治療の関しては、患者さんの価値観とぶつかってもより強く説得ができるでしょう。逆に、もし有効性がはっきりしないものであれば患者さんの好みや判断によって治療を行うか行わないかを決めて見よいかもしれません。ただ、「価値観」には患者さんのみならず「社会」の価値観を考慮する必要性があります。また、すでに有効性が示された治療法であっても、複雑で訓練が必要で危険性も伴う場合には、その医療機関の判断としてあえて避けるという場合もあるでしょう。
このように、
EBMの考えは「根拠」を絶対視したものではありません。ここに示した3要素のバランスの中で行われる判断が最も正しい判断につながるであろうという期待が支えになっているのです。
EBMEBHCにおいては、根拠があれば絶対正しいという誤解があるかもしれません。このような取り除くためには、「根拠に基づく...」というよりも、「根拠をふまえた...」としたほうが適当かもしれません。